2013.9.18 在来の固定種を守るには並々ならぬ苦労がいる [ファーマー雑記]
本当に美味しい野菜が消えていってしまう時代である。
本当に美味しいものは在来の固定種である。昔から栽培され、種採りができ、次世代に同じものが採れる。昔はたいていの農家がこうして毎年繰り返し野菜の作付けを行っていた。
ところが、八百屋さんが淘汰されてスーパーマーケットの時代の到来とともに、本当に美味しいものが市場からだんだん消えていってしまったのである。
対面販売であれば「これは見た目に悪いが、こうこうこういう調理をすればとっても美味しいよ。今時しか採れないものだから、今日買っていきなよ。」と八百屋さんが教えてくれたものであるが、セルフ販売になると消費者は誰もアドバイスしてくれないから「見た目の良さ」を物差しにして買うようになる。すると、生産者はそうした種を種屋さんから買うしかなくなる。
種屋さんは種屋さんで、「見た目に良く、均一な品質のものがたくさん採れる」ことを第1にして新品種の開発に専念し、その結果誕生したのが「F1種」(交配種)である。互いのいい点を引っ張り出し、互いの弱点を打ち消すという品種の開発によって、消費者も生産者も納得がいくのである。
しかし、交配種は無理やり産みだされた品種であるから、次世代がまともに育たなかったり、次世代は均一な品質にならない。何と言っても一番の悪い点は「美味しくない」ことである。「美味しさ」まで加味しようとするのは至難の技であるからだ。それに成功している品種は極めてまれであろう。
やはり「美味しさ」を追求するとなると、これは在来の固定種に行き着く。どれも見た目に悪いし、大きさは不揃いになる。専業農家にとっては利益が出ないから、誰かこだわりの人がいないと消えてしまう。それを種苗会社でやってくれているのが「野口のタネ」であるが、消えていきそうなローカルなものまでは手が回らない。
その一例が「八ちゃんナス」である。今日、その種をある方からもらった。
このナスは、You Tube で生産者(兵庫県姫路市の黒田八郎さん)が詳しく説明されていますから、一度ご覧になることをお勧めします。「八ちゃんナス」で検索すれば、直ぐに見つかるでしょう。どうでもいいことですが、このナスの命名法がとても面白いです。
さて、これより、表題の「在来種を守るには並々ならぬ苦労がいる」について、少々長くなるが、小生の思いを書くことにする。
「八ちゃんナス」を生産されておられる黒田さんは「種が少なく、柔らかく、とても美味しい。特に一夜漬けが絶品。」と言っておられるものの、このナスは紫ナスではあるが、色が薄くなるものがあってばらつきがあるし、加えて形も悪くて、とても店頭に並べられるものではない。そうしたことから、ご自身も出荷する気は全く持っておられない。
しかし、味の評判はとてもいいようで、兵庫の在来種保存会でも「八ちゃんナス」として紹介しておられる。
そんな素晴らしいナスであるのだが、種採りは今では黒田さんただ一人しか行ってみえない。黒田さんが苗を作り、60軒ほどの方に苗を提供されているだけである。ご本人は皆さんに喜んでもらえるからと喜々として孤軍奮闘されているのだが、黒田さんも60代の方であり、10年、20年経ち、後継者がいないと、あとが続かない。下手をすると、消えてしまうかもしれない。
小生がいただいた「八ちゃんナス」の種は、広島県にお住まいの家庭菜園をやっておられる方からだから、たぶん黒田さん以外の方が種採りされておられることでしょうが、それとて危うい。
これは小生が実感している。うちではこのブログで何度も書いているが「白ナス」を毎年種採りして栽培している。このナスは焼きナスにすると絶品で、苗をたくさん作り、2、30軒の方に苗を差し上げている。
そのブログを見て、「白ナス」の種を分けて欲しいという方が、その交換に「八ちゃんナス」の種を送って下さったのである。
さて、この「白ナス」も種採りする方は最近まで誰もいらっしゃらなかった。それは、どだい無理だからである。紫ナスの隣に白ナスを植えると交配してしまって、何ともならなくなるからである。幸いうちの畑は近くにナス栽培される方はなく、交配の恐れがないから、たまたま可能なだけである。
もう20年以上栽培を続けているが、それでも1回交配してしまったことがある。よって、先の黒田さんも毎年4個を種採り用に残されるし、うちも3、4個そうしている。
しかし、種採りがうちだけだと何かあった時には種採りができず、絶えてしまう恐れがある。そこで、何とか誰か他に種採りをしてくれないかと、あまり期待はできないものの呼びかけをしてきた。
そしたら、昨年からお一人岐阜市在住の方が種採りを始められたし、遠く埼玉県の方が数年前から種採りされている。しかし、ご両人とも小生より年配の方であり、10年、20年経つと心配になってくる。
かように、ローカルな在来の固定種を守っていくのは難しいのである。
しかし、守らねばならない。うちが栽培している「白ナス」は、当面、10年、20年どころか30年、40年(100歳を超える!)と種採りしていく気構えでいるから良いが、それまでに何か方法を考えねばならない。
今のところ妙案はないが、ネット社会が今以上に進むであろうから、今回、小生が送らせていただいたような方法でもって必要とする方に行き渡るようになるかもしれない。
また、鹿児島県の一部山間地では紫ナスは栽培されずに「白ナス」が一般化しているとのことであり、その所在を知れば、種を入手するのが容易となろう。(後日追記:うちで栽培しているのは鹿児島産の「白ナス」にほぼ間違いないことが分かり、これは「野口のタネ」で購入できることが判明。)
加えて、岐阜・愛知辺りの道の駅でまれに見かける「白ナス」であり、これが広まれば、そのルートから種が入手できるかもしれない。
実は小生のねらい目の一番はこれである。広く普及させるには、広い地域で多く栽培していただくに限るからである。幸いこの「白ナス」は小生の知るところでは、鹿児島、岐阜、愛知、埼玉で栽培が可能であるし、かつ、紫ナスより多収穫であることが多い。よって、薬屋稼業であることを生かし、ある製薬会社にお願いして、うちで作った苗を広い範囲に配布していただくようお願いしている。
しかし、その苗作りもお隣さん老夫婦のビニールハウスで育苗していただいているのだが、これが間もなく不可能になりそうな気配がし、この難題をいかに克服するか、早急にその対応策を考えねばならなくなってしまった昨今である。
在来の固定種の保存、普及は、かくも難しいものである。
誰かバカな御仁がいないことには消えてしまう運命にあるのである。
本当に美味しいものは在来の固定種である。昔から栽培され、種採りができ、次世代に同じものが採れる。昔はたいていの農家がこうして毎年繰り返し野菜の作付けを行っていた。
ところが、八百屋さんが淘汰されてスーパーマーケットの時代の到来とともに、本当に美味しいものが市場からだんだん消えていってしまったのである。
対面販売であれば「これは見た目に悪いが、こうこうこういう調理をすればとっても美味しいよ。今時しか採れないものだから、今日買っていきなよ。」と八百屋さんが教えてくれたものであるが、セルフ販売になると消費者は誰もアドバイスしてくれないから「見た目の良さ」を物差しにして買うようになる。すると、生産者はそうした種を種屋さんから買うしかなくなる。
種屋さんは種屋さんで、「見た目に良く、均一な品質のものがたくさん採れる」ことを第1にして新品種の開発に専念し、その結果誕生したのが「F1種」(交配種)である。互いのいい点を引っ張り出し、互いの弱点を打ち消すという品種の開発によって、消費者も生産者も納得がいくのである。
しかし、交配種は無理やり産みだされた品種であるから、次世代がまともに育たなかったり、次世代は均一な品質にならない。何と言っても一番の悪い点は「美味しくない」ことである。「美味しさ」まで加味しようとするのは至難の技であるからだ。それに成功している品種は極めてまれであろう。
やはり「美味しさ」を追求するとなると、これは在来の固定種に行き着く。どれも見た目に悪いし、大きさは不揃いになる。専業農家にとっては利益が出ないから、誰かこだわりの人がいないと消えてしまう。それを種苗会社でやってくれているのが「野口のタネ」であるが、消えていきそうなローカルなものまでは手が回らない。
その一例が「八ちゃんナス」である。今日、その種をある方からもらった。
このナスは、You Tube で生産者(兵庫県姫路市の黒田八郎さん)が詳しく説明されていますから、一度ご覧になることをお勧めします。「八ちゃんナス」で検索すれば、直ぐに見つかるでしょう。どうでもいいことですが、このナスの命名法がとても面白いです。
さて、これより、表題の「在来種を守るには並々ならぬ苦労がいる」について、少々長くなるが、小生の思いを書くことにする。
「八ちゃんナス」を生産されておられる黒田さんは「種が少なく、柔らかく、とても美味しい。特に一夜漬けが絶品。」と言っておられるものの、このナスは紫ナスではあるが、色が薄くなるものがあってばらつきがあるし、加えて形も悪くて、とても店頭に並べられるものではない。そうしたことから、ご自身も出荷する気は全く持っておられない。
しかし、味の評判はとてもいいようで、兵庫の在来種保存会でも「八ちゃんナス」として紹介しておられる。
そんな素晴らしいナスであるのだが、種採りは今では黒田さんただ一人しか行ってみえない。黒田さんが苗を作り、60軒ほどの方に苗を提供されているだけである。ご本人は皆さんに喜んでもらえるからと喜々として孤軍奮闘されているのだが、黒田さんも60代の方であり、10年、20年経ち、後継者がいないと、あとが続かない。下手をすると、消えてしまうかもしれない。
小生がいただいた「八ちゃんナス」の種は、広島県にお住まいの家庭菜園をやっておられる方からだから、たぶん黒田さん以外の方が種採りされておられることでしょうが、それとて危うい。
これは小生が実感している。うちではこのブログで何度も書いているが「白ナス」を毎年種採りして栽培している。このナスは焼きナスにすると絶品で、苗をたくさん作り、2、30軒の方に苗を差し上げている。
そのブログを見て、「白ナス」の種を分けて欲しいという方が、その交換に「八ちゃんナス」の種を送って下さったのである。
さて、この「白ナス」も種採りする方は最近まで誰もいらっしゃらなかった。それは、どだい無理だからである。紫ナスの隣に白ナスを植えると交配してしまって、何ともならなくなるからである。幸いうちの畑は近くにナス栽培される方はなく、交配の恐れがないから、たまたま可能なだけである。
もう20年以上栽培を続けているが、それでも1回交配してしまったことがある。よって、先の黒田さんも毎年4個を種採り用に残されるし、うちも3、4個そうしている。
しかし、種採りがうちだけだと何かあった時には種採りができず、絶えてしまう恐れがある。そこで、何とか誰か他に種採りをしてくれないかと、あまり期待はできないものの呼びかけをしてきた。
そしたら、昨年からお一人岐阜市在住の方が種採りを始められたし、遠く埼玉県の方が数年前から種採りされている。しかし、ご両人とも小生より年配の方であり、10年、20年経つと心配になってくる。
かように、ローカルな在来の固定種を守っていくのは難しいのである。
しかし、守らねばならない。うちが栽培している「白ナス」は、当面、10年、20年どころか30年、40年(100歳を超える!)と種採りしていく気構えでいるから良いが、それまでに何か方法を考えねばならない。
今のところ妙案はないが、ネット社会が今以上に進むであろうから、今回、小生が送らせていただいたような方法でもって必要とする方に行き渡るようになるかもしれない。
また、鹿児島県の一部山間地では紫ナスは栽培されずに「白ナス」が一般化しているとのことであり、その所在を知れば、種を入手するのが容易となろう。(後日追記:うちで栽培しているのは鹿児島産の「白ナス」にほぼ間違いないことが分かり、これは「野口のタネ」で購入できることが判明。)
加えて、岐阜・愛知辺りの道の駅でまれに見かける「白ナス」であり、これが広まれば、そのルートから種が入手できるかもしれない。
実は小生のねらい目の一番はこれである。広く普及させるには、広い地域で多く栽培していただくに限るからである。幸いこの「白ナス」は小生の知るところでは、鹿児島、岐阜、愛知、埼玉で栽培が可能であるし、かつ、紫ナスより多収穫であることが多い。よって、薬屋稼業であることを生かし、ある製薬会社にお願いして、うちで作った苗を広い範囲に配布していただくようお願いしている。
しかし、その苗作りもお隣さん老夫婦のビニールハウスで育苗していただいているのだが、これが間もなく不可能になりそうな気配がし、この難題をいかに克服するか、早急にその対応策を考えねばならなくなってしまった昨今である。
在来の固定種の保存、普及は、かくも難しいものである。
誰かバカな御仁がいないことには消えてしまう運命にあるのである。
白ナスの継承について
大変な努力に敬意を表します。在来種の種が自宅で取れれば良いですが、自然交配して願いが叶いません。隣の畑で違う品種の栽培をしていても、交配しない方法があれば良いと思います。考えれば、有りそうなものですが私も勉強してみたいと思います。そうすれば種の保存が簡単になると思います。
by 木村 (2013-09-20 11:43)
以前、種を分けていただいたchieです。
記事にして頂いて、ありがとうございます。
気づくのが遅くなって、申し訳ありません。
我が家では、ナスの交雑防止に大きめのお茶パックを使用しています。
開花前の蕾にお茶パックを被せ、風で飛ばないように根元を紐で軽く縛っておきます。
袋の中で実が付いたら袋を外して、わかりやすいように目印をつけておきます。
お茶パックは、花が開花した時に袋の中に少し余裕があるくらいの大きさがオススメです。
『広島県農業ジーンバンク』という在来種の保存施設があるのですが、そこの職員の方に質問したところ、ビニール袋などの通気性の悪い袋だと湿気がこもって花粉が劣化するので、交雑防止用に被せる袋は通気性の良い物が適していると教えて頂きました。
ジーンバンクでは、果実袋を使用されているそうですが、我が家では手に入りやすいお茶パックを使っています。
今まで、我が家では紫ナスしか育てていなかったので、ちゃんと交雑防止できているのかはわかりませんが、八ちゃんナスの特徴的な形は変化していないので、おそらくこの方法で大丈夫だと思います。
頂いた白ナスがきちんと交雑防止できるか試して、またご報告させて頂きますね。
by chie (2014-02-27 21:10)
chie様、交雑防止法を教えていただき、有り難うございます。
いただいた八ちゃんナスは自宅前の畑で栽培し、白ナスは従前どおり別の畑で栽培しますが、自宅前の畑は虫害がひどく、収穫量が極端に少ないようなら、来年はご教授いただいた方法で、白ナスの畑で交雑防止してみようと思います。
小生、紫ナスの一夜漬が大好物で、楽しみにしています。
by どろんこ (2014-02-28 08:22)
白ナス、八ちやんナスとても興味があります。栽培してみたいと思います。ただ今年初めての苗づくり(踏込温床での)ですから未知の世界です。うまく苗ができればうれしいのですが・・・・・種をお譲りいただけたら幸いです。
by 木村 (2014-02-28 18:52)
美味しい固定種野菜が何処かに無いかと探していたところ、ここに辿り着きました。
白ナスにとても興味があります。
まだ菜園をはじめて4年目で30過ぎたばかりの若輩者ですが、二年かけて畑の肥料を抜き、今年からアロイトマト、楊貴妃オクラなどの固定種野菜を無肥料で育て自家採種していこうと考えています。
種から育苗もしていますし、何より他の茄子を育てていないので混雑する心配もありません。
もしよろしければ種を譲って頂けないでしょうか。
by 5児のパパ (2014-04-04 01:18)
5児のパパ様へ
種を差し上げます。
このブログのプロフィールをクリックしていただけば住所が出てきます。
返信用封筒に82円切手を貼ってお送りください。
by どろんこ (2014-04-04 07:21)